妊娠中絶をめぐるトラブルは男女の交際でよくあるトラブルです。
男女が交際して女性が妊娠したため、男性が中絶を要望するケースがよくあります。
妊娠したことををきっかけに婚約に至るケースなら問題ないのですが、男性は結婚する気持ちはないため、女性に中絶を求めます。この場合、女性が求めに応じて中絶する場合でも、このことが原因で交際を解消することはよくあることです。自分は生みたかったのに、相手の男性に言われたため、不本意に中絶させられたとして、女性が中絶費用や慰謝料の支払いを求めて男性とよくトラブルになります。
このような事件を受任した場合、示談で解決することが多く、裁判まで発展することは稀ですが、下記の判例は同種事件を解決する場合の参考になります。
平成21年10月15日 東京高等裁判所 判決
【主文】
当裁判所も、被控訴人の請求は、控訴人に対して114万2302円及びこれに対する平成20年3月4日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。
【判決要旨】
胎児が母体外において生命を保持することができない時期に、人工的に胎児等を母体外に排出する道を選択せざるを得ない場合においては、母体は、選択決定をしなければならない事態に立ち至った時点から、直接的に身体的及び精神的苦痛にさらされるとともに、その結果から生ずる経済的負担をせざるを得ないのであるが、それらの苦痛や負担は、A男とB子が共同で行った性行為に由来するものであ
て、その行為に源を発しその結果として生ずるものであるから、A男とB子とが等しくそれらによる不利益を分担すべき筋合いのものである。
しかして、直接的に身体的及び精神的苦痛を受け、経済的負担を負うB子としては、性行為という共同行為の結果として、母体外に排出させられる胎児の父親となったA男から、それらの不利益を軽減し、解消するための行為の提供を受け、あるいは、B子と等しく不利益を分担する行為の提供を受ける法的利益を有し、この利益は生殖の場において母性たるB子の父性たるA男に対して有する法律上保護される利益といって妨げなく、A男は母性に対して上記の行為を行う父性としての義務を負うものというべきであり、それらの不利益を軽減し、解消するための行為をせず、あるいは、B子と等しく不利益を分担することをしないという行為は、上記法律上保護される利益を違法に害するものとして、B子に対する不法行為としての評価を受けるものというべきであり、これによる損害賠償責任を免れないものと解するのが相当である。
A男は、父性としての上記責任に思いを致すことなく、B子と具体的な話し合いをしようともせず、ただB子に子を産むかそれとも中絶手術を受けるかどうかの選択をゆだねるのみであったのであり、B子との共同による先行行為により負担した父性としての上記行為義務を履行しなかったものであって、これは、とりもなおさず、上記認定に係わる法律上保護されるB子の法的利益を違法に侵害したものといわざるを得ず、これによって、B子に生じた損害を賠償する義務があるというべきである
(なお、その損害賠償義務の発生原因及び性質からすると、損害賠償義務の範囲は、生じた損害の2分の1とすべきである。)。
判決認容額
女性の精神的苦痛(慰謝料) 200万円
治療費等68万4604円
合計 268万4604円
双方平等に折半するとして、134万2302円
これに弁護士費用10万円を加算し、144万2302円
男性が中絶費用30万円を既に支払っているので、
30万円を控除して、114万2302円