賃貸借について、民法の改正により次のとおりになります。
1 賃貸人の地位の移転(改正民法605条~605条の4)
ア 不動産の賃借人が目的物件の引き渡しを受けたり賃借権の登記をした後、不動産が譲渡された場合、原則として賃貸人の地位は不動産譲渡人から譲受人に移転します。
イ この場合、敷金返還債務、必要費及び有益費償還債務も譲受人に移転します。
引き渡しや登記の後、物件が譲渡されれば譲受人が賃貸人となることはこれまでも判例で認められていました。
今回の改正では、その場合、敷金返還債務、必要費及び有益費償還債務も新賃貸人に移転することについて明文規定が置かれました。
これまでの判例によると、前所有者の時に発生した延滞賃料等の弁済に敷金が充当された後の残額についてだけ、敷金返還債務が新所有者に移転するとしています。今回の改正でも、敷金返還債務のうちどれだけを新所有者に移転するかは明定されていません。
2 敷金(改正民法622条の2)
ア 敷金とは、賃借人の債務を担保するために賃借人が賃貸人に交付する金銭をいいいます。
イ 賃貸人が、敷金から賃借人の債務を控除した残額を賃借人に返還しなければならない時期は、賃貸借契約が終了しかつ物件の返還を受けたとき、又は賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき。
ウ 賃貸人は、賃貸借期間の途中でも、賃借人の債務弁済に敷金を充当でき、他方賃借人は、そのような充当することを賃貸人に請求できません。
これまで敷金の定義、敷金返還債務の発生要件、充当関係などの規定はありませんでしたが、これを明らかにしました。
3 賃貸人の修繕義務の範囲、賃借人の修繕権(改正民法606条、607条の2)
ア 賃貸人は修繕の義務を負いますが、賃借人の責任で修繕が必要となった場合はその義務を負いません。
イ 賃借人は、次の場合は自ら修繕できます。
(ア)修繕が必要なことを賃貸人に通知してから、又は賃貸人が修繕が必要なことを知ってから、相当期間が経過しても賃貸人が修繕しないとき。
(イ)急迫の事情があるとき。
賃借人の責任で修繕が必要となったとき、賃貸人が修繕義務を負うかどうか必ずしも明らかでなかったものを明らかにしました。また賃貸人が所有者であるにもかかわらず、物理的変更を伴うことが多い修繕を賃借人が権利としてできる場合を定めました。
4 原状回復義務(改正民法621条)
賃借人は、通常損耗(経年劣化を含む)について原状回復する義務はなく、それ以外の損耗についても賃借人の責任ではないものについて原状回復する義務はありません。
賃借人の現象回復義務についての基本的な考え方を定めました。
これは任意規定であり、特約で賃借人の原状回復義務を広げることは可能です。
最高裁平成17年12月16日判決は、通常損耗を見越して賃料が定められることから、特約がある場合を除いて、賃借人は通常損耗回復義務を負わないとしていました。今回の改正は、これを踏襲したものです。改正によっても、特約で通常損耗等を賃借人に負担させることはできます。但し、その特約は、賃借人が原状回復義務を負う範囲、内容が具体的に明らかにされていることが必要です。
5 賃貸借の存続期間(改正民法604条)
賃貸借契約の最長期間は、これまでの20年から50年に伸ばされました。更新期間も50年を超えることはできません。
髙橋修法律事務所では、賃貸借をめぐる事件を多数扱っていますので、ご遠慮なくご相談下さい。